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詩のこころを読む

 味噌    河上肇

関常(かんつね)の店へ 臨時配給の
正月の味噌もらひに行きければ
店のかみさん
帳面の名とわが顔とを見くらべて
そばのあるじに何かささやきつ
「奥さんはまだおるすどすかや
お困りどすやろ」
あとにつらなる客たちに遠慮してか
負けときやすとも何とも云はで
ただわれに定量の倍額をくれけり
人並みはづれて味噌たしなむわれ
こころに喜び勇みつつ小桶さげて店を出(い)で
白菊一本
三十銭といふを買い求め
せなをこごめて早足に
曇りがちなる寒空の
吉田大路を刻みつつ
かはたれどきのせまる頃
ひとりひとりゐのすみかをさして帰りけり
帰りてみれば 机べの
火鉢にかけし里芋の
はや軟らかく煮えてありふるさとのわがやのせどの芋ぞとて
送り越したる赤芋の
大きなるがはや煮えてあり
持ち帰りたる白味噌に僅かばかりの砂糖まぜ
芋にかけて煮て食(た)うぶ
どろどろにとけし熱き芋
ほかほかと湯気をたてて
美味これに加ふるなく
うましうましとひとりごち
けふの夕餉(ゆうげ)を終へにつつ
この清貧の身を顧みて
わが残生のかくばかり
めぐみ豊けきを喜べり
ひとりみづから
喜べり

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    ”いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。いい詩はまた、生きとし生けるものへの、いとおしみの感情をやさしく誘いだしてもくれます。どこの国でも詩は、その国のことばの花々です。”

 で始まる、茨木のり子著『詩のこころを読む』は、長年彼女自身の心の奥に沈みこんできた美しい詩たちを集めて、それらについて情熱を込めて語った本。1979年岩波ジュニア新書から出ていて、若い人々への入門書だが、これがその「詩」の魅力にはまってしまった私に、音を立てずにひっそりと咲いた花の在処を教えてくれる実にありがたい小さな本で、昨年手にしたときからもうすっかり大切な友のような存在になってしまった。

 1 生まれて

 2 恋歌

 3 生きるじたばた

 4 峠

 5 別れ

 選ばれた詩はこの5つの構成のなかに納まっている。谷川俊太郎、吉野弘、会田綱雄、新川和江、岸田衿子、黒田三郎、川崎洋、濱口國雄、岩田宏、石川逸子、金子光晴、石垣りん、川上肇・・・。たくさんの詩をただ並べてあるだけではなく、彼女の豊かな心を垣間見ることが出来る本当によい本なのだ。彼女の詩に会えたのも幸せだが、この本を残してくれた彼女と多くの詩人達の誇り高い感受性に深い感謝の気持ちでいっぱいになる。

 浄化作用(カタルシス)を与えてくれるか、くれないか、そこが芸術か否かの分かれ目なのです。だから音楽でも美術でも演劇でも、私のきめ手はそれしかありません。
 この本でとりあげた作品は、すべて、それぞれの方式のそれぞれの浄化装置をかくしていて、かなしくなるくらいの快感を与えてくれたものばかりです。”

 冒頭の詩の作者、マルクス経済学者で政治犯として投獄されたという河上肇(1879-1946)の生涯にはとても惹きつけられてしまう。これは1944年の元旦の作。彼の『貧乏物語』『自叙伝』読んでみたい。

 それから『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』の石垣りん(1920-2004)。二人の詩からは生きることの尊さが滲み出ていて、その美しく尊い魂の輝きはいつまでも失われることはない。

Imgp4314

 太陽のほとり     石垣りん

太陽
天に掘られた 光の井戸。

私たち宇宙の片隅で 輪になって
たったひとつの 井戸を囲んで
暮らします。

世界中 どこにいても
太陽のほとり。

みんな いちにち まいにち
汲み上げる
深い空の底から
長い歴史の奥から
汲んでも 汲んでも 光
天の井戸。
(日本の里には 元日に 若水を汲む
という 美しい言葉が ありました)

昔ながらの
つるべの音が 聞こえます。

胸に手を当てて 聞きましょう
生きている いのちの鼓動
若水を汲み上げる その音を。

新年の光

満ち あふれる 朝です。

詩集『空をかついで』より。

 上写真はよくうちの回りを飛んでいる美しいちょうちょ。外の階段下に育っている木の葉っぱに産卵していくのだ。大きな緑のキャタピラーが知らないうちに蝶になっている。追記:蝶の名前が見つかった。Blue Triangle Butterfly ブルー・トライアングル・バタフライ。木はカンファー・ローレル。楠の木だな。なになに。深刻な雑草だって・・・!

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