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詩集をひらくとき

 最近ツイッターからの情報で脳が容量オーヴァー気味ということに気がついた。

 キッチンに好きな詩集を何冊か置いて家事の合間に折り目の付いた頁をまた開く。

 私はここに逃げてきているのだろうか?

 違う。今生きていることを確認したいだけ。

 

   汲む   
   ―Y・Yに―   

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです

            茨木のり子 詩集「現代詩文庫第1期20」 鎮魂歌より

P1100180_2


 

   水の星

宇宙の漆黒の闇のなかを
ひっそりまわる水の星
まわりには仲間もなく親戚もなく
まるで孤独な星なんだ

生れてこのかた
なにに一番驚いたかと言えば
水一滴もこぼさずに廻る地球を
外からパチリと写した一枚の写真

こういうところに棲んでいましたか
これを見なかった昔のひとは
線引きできるほどの意識の差が出る筈なのに
みんなわりあいぼんやりとしている

太陽からの距離がほどほどで
それで水がたっぷりと渦まくのであるらしい
中は火の玉だっていうのに
ありえない不思議 蒼い星

すさまじい洪水の記憶が残り

ノアの箱船の伝説が生まれたのだろうけれど
善良な者たちだけが選ばれて積まれた船であったのに
子子孫孫のていたらくを見れば この言い伝えもいたって怪しい

軌道を逸れることもなく いまだ死の星にもならず
いのちの豊饒を抱えながら
どこかさびしげな 水の星
極小の一分子でもある人間が ゆえなくさびしいのもあたりまえで
あたりまえすぎることは言わないほうがいいのでしょう

 

      茨木のり子 詩集「倚りかからず」1999年より

300pxthe_earth_seen_from_apollo_17                The Blue Marble

デイヴ・スチュワート&バーバラ・ガスキンhttp://www.davebarb.demon.co.uk/ を思い出したように聴いているこの二週間。ひねりあげたポップミュージック。英国式ユーモアのセンスとシリアスなテーマが私には心地いい。最近見つけた新しいCD2枚が注文してあった原発本とともに届いた。昔のアルバムも出してきた。全てを忘れてしまいそうになる。

Dave Stewart & Barbara Gaskin "The World Spins So Slow" From the album "Broken Records - The Singles"1987

Closer to your sadness
Closer to your sadness
Don't wait too long

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コメント

胸にすーっと入ってきました。

大人って何だろう?と考えさせられました。
私は年をとればとるほど、「大人」と定義されている自分に躊躇します。
子供のころ描いていた大人に全然なれてないので。

でも茨木のり子さんのおっしゃる「大人」って素敵。

いつまでも柔軟でいたいものです。

  "軌道を逸れることもなく いまだ死の星にもならず
   いのちの豊饒を抱えながら"

…のところで涙がこぼれました。
悲しいのでもさみしいのでもない、
うーん、あえて言うなら
いとおしくてありがたい涙かな。

時々姿を見せ合い
遠からず近すぎず
程よい距離を保ちながら
お互いに絶対的な信頼関係の
ベタベタ甘えない仲の弟

私のイメージでは地球はさみしそうじゃないなぁ(笑。
歳の離れた、でも手のかからない弟くん・月を持つ地球。
とおーーーいけど離れない親戚もたくさんいるし。

すてきな詩の紹介をありがとね。

ごるふぃさん

「汲む」本当に奥深くてじんとくる詩ですよね。
この「素敵な女の人」Y・Yは女優の山本安英さんだそうです。
ところで話は変わりますが、今日は7月10日で「納豆の日」なんですって。
そういうわけじゃないけど今夜も美味しく自家製納豆食べました。

いつくらさん

私たちが今ここにいるのは、全て母なる奇跡の星、地球のおかげ。
人類全てがそのことに気付けば、戦争も環境破壊もなくなるのに。
人間の心が愛で満たされていないと、母なる地球も悲しいでしょうね。
コメントありがとう。

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