茨木のり子

心の底の静かな湖

 茨木のり子さんの詩を二編。 

  時代おくれ  


車がない   
ワープロがない   
ビデオデッキがない   
ファックスがない   
パソコン インターネット 見たこともない   
けれど格別支障もない


そんなに情報集めてどうするの       
そんなに急いで何をするの       
頭はからっぽのまま  


すぐに古びるがらくたは   
我が山門に入るを許さず       
   (山門だって 木戸しかないのに)   


はたから見れば嘲笑の時代おくれ   
けれど進んで選びとった時代おくれ             
         もっともっと遅れたい    


電話ひとつだって   
おそるべき文明の利器で   
ありがたがっているうちに   
盗聴も自由とか   
便利なものはたいてい不快な副作用をともなう   
川のまんなかに小船を浮かべ   
江戸時代のように密談しなければならない日がくるのかも   


旧式の黒いダイアルを   
ゆっくり廻していると   
相手は出ない   
むなしく呼び出し音の鳴るあいだ   
ふっと   
行ったこともない   
シッキムやブータンの子らの   
襟足の匂いが風に乗って漂ってくる   
どてらのような民族衣装    
陽なたくさい枯草の匂い   


何が起ろうと生き残れるのはあなたたち   
まっとうとも思わずに   
まっとうに生きているひとびとよ 

 

 

      

  時々テクノロジーに魂を抜かれているような気になって、ネットの膨大な情報の前に気分が悪くなることがある。ネットから離れられるキャンプに行くとほんとに心が開放される。でもやっぱり情報が欲しい。あと10年したら私達は何を求めて生きているんだろう。

 

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春休み、お風呂場改装、「聴く力」

 2ヶ月ぶりの更新。ブリスベンはジャカランダの花が咲き始めた。春休みも半分が過ぎた。私も2週間のホリデイをもらった。

 今年は長年の花粉症を克服して(奇跡だ!)気持ちのいい春を過ごしている。ネットで知ったヴィタミンC摂取とジンジャーティー(小さじ山盛り一杯のすり下ろし生姜に熱湯を注ぎ、はちみつを少々)がてきめんに効いたのだ。本当に信じられない。でももしかすると、自家製プロバイオティック豆乳ヨーグルトや自家製キムチや、抗酸化スーパーフードか数ヶ月前から摂り始めた植物性オメガ3・6・9ブレンドオイルが効いているのかもしれない。思えば23年間花粉症に悩まされていたのだ。日本にいたときは春と秋の2回。ブリスベンでは8月半ばから10月までがつらい時期だった。抗ヒスタミン剤、甜茶、漢方薬、ガーリックのサプリメント、ホメオパシーと、今までいったいいくらお金をつぎ込んでいたのだろう。

 花粉症とさよならできて喜んでいたのもつかの間。実は冬の終わりにうかつにも湯たんぽで低温やけどをして、なかなか治らないので医者に行ったら3度のやけどと診断されてしまったのだ。こんなひどいやけどは生まれて初めてだ。湯たんぽですねをじっくりスロークッキングしてしたってことか。ああ情けない。

 毎年のことだが、年の半分を経過するとその先の時間の進み具合が2倍速くらいに感じる。しかし今年あと3ヶ月だなんて信じられない。カフェの仕事は順調で、相変わらず忙しいけれど店の若いスタッフ(彼女達の母親は私と歳が変わらない)と楽しく仕事をさせてもらっている。そしてこの歳になってもまだ学ぶことがたくさんあるのだ。弱ってきた脳のよい刺激になってるかなあ。

 さて。実は我が家は現在お風呂場の改装中なのである。夢に見た新しいお風呂場だけど、いざデザインを考えようとするとなかなかアイディアがまとまらない。この一週間ブリスベン中のバスルーム関連ショップをあちこちあたってきたが、構想は一転、二転、三転し、今日ようやく決定した。というのもモダンなヴァニティー・ユニット(化粧洗面台)を入れるかどうかですったもんだがあったのだった。アンティークのチェストに穴を開けて陶器のボウル(洗面器)を入れることも考えた。しかし結局決めたのは(それは今日)クラシックな陶器のペデスタル・ベイスン(足つき洗面台)。

 しかしお風呂場はキッチンと比べ物にならないほどお金がかかる。というのもまず長年の悩みの種だった壁と天井のアスベスト・ボードを取り除く工事から始まった。これが一ヶ月前。ちなみにアスベスト除去の作業員はこんな防護服(asbestos removal suit)だそうだ。それほど危険なものなのだ。

 あと一週間で完成予定。現在シャワーはタープで囲った庭の特設露天シャワーで済ませている。これなかなか素敵。なんだかキャンピング気分。それからハイヤーした簡易トイレも庭にあって、まるで音楽フェスティヴァル気分(ただきつい殺菌・消臭剤の甘ったるい匂いが我慢できないけれど)。

 写真はお風呂場から退去中のバスタブ。新しいのを買ったほうが安いのだが、古い物(というか古くて鉄製のもの)を粗末に出来ないボクちゃんはレストアすると決意。

P1020914

 続きは最近作ったお菓子など。

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「シカタガナイ」を追放

 原発の持続不可能性、プルトニウムの危険性などについて、専門家の立場から警告を発し続けた高木仁三郎氏の本『市民科学者として生きる』(岩波新書)の終章の始めに、カレル・ヴァン・ヴォルフレン著『人間を幸福にしない日本というシステム』からの引用がある。                                               

   こんなふうに説得を進めさせて下さい。個人はすべて、少しだけなら自分の環境を変える能力がある。(中略)そうなる前提として、あなたは基本的で重大な一歩をまず踏み出さなければならない。(中略)つまりそれは、日本で最も頻繁に使われる政治用語「シカタガナイ」をあなたの辞書から追放すること。”

 
                                                  

 21日は参議院選挙。在外選挙は7月5日に始まり、私は先週の初めに仕事帰りに日本領事館で投票してきた。いつも思うのだが、領事館の投票所(事務所ではなく同じフロアの別室)に待機している役員全員(5、6人)から投票会場に来た私一人に視線が集まるので(投票に来る人はまばらだ)いつもものすごい緊張感を伴う。この緊張感に勝てなくて、というか崩したくていつも何か話をしてしまいたくなる衝動に駆られるのだがこれは適切な行為ではないのかもしれない(実際してしまった)。

 今回の選挙で違ったことは、今まで在外選挙証保持者へ直接封書で送ってくれた知らせがなかったことだ。ネットで情報が入ってくるから私はいいけれど、ちょっと不親切ではないかと思った。訊いたら「今回から廃止になった」ということ。ちなみにこのサイトによると昨年の衆院選で在外選挙登録していても投票した有権者はたった20%程度だったそうだ。

 思えば、在外選挙制度が始まったのがちょうど私がオーストラリアに来た年からだった。その時以来の登録だったので、地元の区役所から届いた在外選挙人証の欄は今回の投票でいっぱいになった。次の選挙に必要な新しいカードを発行するために申請書を領事館に提出したのだが、その時スタンプいっぱいになった古いカードを持っていかれたのが残念だった。皆勤賞とかないの(笑)?

 しかし近頃の領事館のセキュリティーチェックの厳しさには驚くものがある。用事がある2つの部屋に行くのに2人の警備員がIDカードの確認と金属探知機片手で歓迎してくれるのだ。今までこんなんだったっけ?領事館入場では携帯電話とカメラも入り口で預けなければならなかった。

 今日はそんなのほほんとした気分でこれを書いているわけではないのだ。とにかくこの1、2週間選挙と政治関連のニュースに目が離せない。選挙のため軒並みに増えてくるツイッターのタイムラインを無視できなくて毎晩iPodタッチ(ツイッターに便利、だけど目が悪くなるなあ)を持って布団に入っていたら昨日で総ツイート数が4000に届いてしまった。ほとんどがリツイートけれど、もうとにかく黙っていることなんてできない。たかが一票、されど一票。

 昨夜読むことが出来たジブリの会報”熱風”の特集「憲法改正」には涙が出る思いだった(無料PDF配信は明日20日18:00まで)。私達は政治に参加しなくてはならない義務などない。参加出来る権利があることを頭にいれておくべきだ(ちなみにオーストラリアでは投票は義務である。投票会場の小学校などではケーキストールや古本ストールなんかが出てちょっとしたお祭り)。 平和な暮らしを他人任せにしてはいけない。

 追記:7/26のBLOGOSに宮崎さんの「憲法を変えるなどもってのほか」が全文掲載されました。

 追記2:PDFのリンクがみつかりました。

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私の故郷

 3年半ぶりの日本。あれからもう3ヶ月が過ぎていってしまった。既に夢の中というか、オーストラリアに戻った瞬間に私の心は日本滞在前の日常モードにすんなりとリセットされてしまっていた。それと同じことだが、日本に着いた瞬間にオーストラリアでの生活の記憶がぷつんと消えて思い出せなくなってしまっていた。

 行きのフライトではゴールド・コースト空港で7時間もの出発遅れで散々な目にあった(実は帰りも関空のチェックインで2時間も並ばされるという酷い目に遭ったのだが)。なにしろ関空に飛行機が到着したのは翌朝の午前3時過ぎ。ホテルに電話しても繋がらないし、空港前に並んでいたタクシーはホテルは近すぎるから乗せてくれない(こんなことあり!?)。結局ホテル宿泊、というか仮眠とお風呂と朝食はあきらめて飛行機会社が臨時で出してくれた難波行きのバスに乗って始発の近鉄特急で名古屋に帰ることにした。しかし信じられないことに、切符を買おうとしたら現金しか取り扱ってないと言われ、ゾンビのような顔をして真っ暗な寒い難波のビル街をATMさがして歩く羽目になった。コンビニを見つけ、マシーンに銀行カードを入れて日本の紙のお金が出てきたときは本当に嬉しかった。

 私の目に映った311以降の最初の日本の景色。平常通り規則正しく移動する都会の日本人の姿。駅や交差点やお店のエスカレーター付近で繰り返されるアナウンスの雑音。知っていたはずの日本の日常に凄く違和感を感じた。なるべく他人とコミュニケーションをとりたくない、人と係わりたくない、そんな雰囲気がなんとなく伝わってくるのだ。それは単に日本人のシャイな性格だからなのか?それとも私がオーストラリアに長く住んでしまったから感じるだけのことなのか?

 他にもお店での若い人々の「いらっしゃいませ~」と繰り返される鼻にかかった奇妙な声が馴染めなかった。彼らはその時作業しながら自分の手を見ながらいらっしゃいませと繰り返し、その目を誰にも向けていない。大きな全国チェーンの古本屋に行った時もマニュアル通りに接客というか、パチンコ屋のようにただ自動的に音声を回転させている店員のアナウンスが不思議だった。そういえば、忙しく動き回る店員をやっと捕まえて「詩集はどこにありますか?」と訊くと、案内されたのは手芸の本の並べてある一角。これはもう苦笑いをするしかなかったっけ。だってまるで茨木のり子の「詩集と刺繍」だったから。

 

  詩集と刺繍

  詩集のコーナーはどこですか
  勇を鼓して尋ねたらば
  東京堂の店員はさっさと案内してくれたのである
  刺繍の本のぎっしりつまった一角へ

  そこではたと気づいたことは
  詩集と刺繍
  音だけならばまったくおなじ
  ゆえに彼は間違っていない

  けれど
  女が尋ねたししゅうならば
  刺繍とのみ思い込んだのは
  正しいか しくないか

  礼を言って
  見たくもない図案集など
  ぱらぱらめくる羽目になり
  既に詩集を探す意志は砕け

  二つのししゅうの共通点は
  共にこれ
  天下に隠れもなき無用の長物
  さりとて絶滅も不可能のしろもの

  たとえ禁止令が出たとしても
  下着に刺繍するひとは絶えないだろう
  言葉で何かを刺しかがらんとする者を根だやしにもできないさ

  せめてもとニカッと笑って店を出る

 

 雪のクリスマスに両親と一緒に行った一泊二日の山中温泉バス旅行。名古屋駅からの送迎バスの旅は快適で子供達もボクちゃんも楽しめた。インターネットで見つけた格安温泉宿だったけど、本当にそれで採算がとれるのかと心配になった。

Imgp2912

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詩集をひらくとき

 最近ツイッターからの情報で脳が容量オーヴァー気味ということに気がついた。

 キッチンに好きな詩集を何冊か置いて家事の合間に折り目の付いた頁をまた開く。

 私はここに逃げてきているのだろうか?

 違う。今生きていることを確認したいだけ。

 

   汲む   
   ―Y・Yに―   

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです

            茨木のり子 詩集「現代詩文庫第1期20」 鎮魂歌より

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生きているもの・死んでいるもの

生きているもの・死んでいるもの

生きている林檎 死んでいる林檎
それをどうして区別しよう
籠を下げて 明るい店さきに立って

生きている料理 死んでいる料理
それをどうして味わけよう
ろばたで 峠で レストランで

生きている心 死んでいる心
それをどうして聴きわけよう
はばたく気配や 深い沈黙 ひびかぬ暗さを

生きている心 死んでいる心 それをどうしてつきとめよう
二人が仲よく酔いどれて もつれて行くのを

生きている国 死んでいる国
それをどうして見破ろう
似たりよったりの虐殺の今日から

生きているもの 死んでいるもの
ふたつは寄り添い 一緒に並ぶ
いつでも どこででも 姿をくらまし

姿をくらまし

   茨木のり子 詩集「対話」(1955年)から

P1090427  
雨の朝、お風呂場の窓からパッション・フルーツ(時計草)の花と挨拶。

  

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詩のこころを読む

 味噌    河上肇

関常(かんつね)の店へ 臨時配給の
正月の味噌もらひに行きければ
店のかみさん
帳面の名とわが顔とを見くらべて
そばのあるじに何かささやきつ
「奥さんはまだおるすどすかや
お困りどすやろ」
あとにつらなる客たちに遠慮してか
負けときやすとも何とも云はで
ただわれに定量の倍額をくれけり
人並みはづれて味噌たしなむわれ
こころに喜び勇みつつ小桶さげて店を出(い)で
白菊一本
三十銭といふを買い求め
せなをこごめて早足に
曇りがちなる寒空の
吉田大路を刻みつつ
かはたれどきのせまる頃
ひとりひとりゐのすみかをさして帰りけり
帰りてみれば 机べの
火鉢にかけし里芋の
はや軟らかく煮えてありふるさとのわがやのせどの芋ぞとて
送り越したる赤芋の
大きなるがはや煮えてあり
持ち帰りたる白味噌に僅かばかりの砂糖まぜ
芋にかけて煮て食(た)うぶ
どろどろにとけし熱き芋
ほかほかと湯気をたてて
美味これに加ふるなく
うましうましとひとりごち
けふの夕餉(ゆうげ)を終へにつつ
この清貧の身を顧みて
わが残生のかくばかり
めぐみ豊けきを喜べり
ひとりみづから
喜べり

P1080564

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私の前にある鍋とお釜と燃える火と / 十二月のうた 

 私の前にある鍋とお釜と燃える火と  石垣りん

それはながい間
私たち女のまえに
いつも置かれてあったもの、

自分の力にかなう
ほどよい大きさの鍋や
お米がぷつぷつとふくらんで
光り出すに都合のいい釜や
劫初(ごうしょ)からうけつがれた火のほてりの前には
母や、祖母や、またその母たちがいつも居た。

その人たちは
どれほどの愛や誠実の分量を
これらの器物にそそぎ入れたことだろう、
ある時はそれが赤いにんじんだったり
くろい昆布だったり
たたきつぶされた魚だったり

台所では
いつも正確に朝昼晩への用意がなされ
用意のまえにはいつも幾たりかの
あたたかい膝や手が並んでいた。

ああその並ぶべきいくたりかの人がなくて
どうして女がいそいそと炊事など
繰り返せたろう?
それはたゆみないいつくしみ
無意識なまでに日常化した奉仕の姿。

炊事が奇しくも分けられた
女の役目であったのは
不幸なこととは思われない、
そのために知識や、世間での地位が
たちおくれたとしても
おそくはない
私たちの前にあるものは
鍋とお釜と、燃える火と

それらなつかしい器物の前で
お芋や、肉を料理するように
深い思いをこめて
政治や経済や文学も勉強しよう、

それはおごりや栄達のためでなく
全部が
人間のために供せられるように

全部が愛情の対象あって励むように。

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8月15日に

 今日もまた茨木のり子の詩集を開く。

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わたしが一番きれいだったとき
 

わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがらと崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした
 

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった
 

わたしが一番きれいだったとき
誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆発っていった
 

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った
 

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた
 

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった
 

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった
 

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように 
              ね   
 

        詩集『見えない配達夫』1958年から
 

準備する


<むかしひとびとの間には
 あたたかい共感が流れていたものだ>
少し年老いてこころないひとたちが語る
 

そう
たしかに地下壕のなかで
見知らぬひとたちとにがいパンを
分けあったし
べたべたと
誰とでも手をとって
猛火の下を逃げまわった
 

弱者の共感
蛆虫の共感
殺戮につながった共感
断じてなつかしみはしないだろう
わたしたちは
 

さびしい季節
みのらぬ時間
たえだえの時代が
わたしたちの時代なら
私は親愛のキスをする その額に
不毛こそは豊穣のための<なにか>
はげしく試される<なにか>なのだ
 

野分のあとを縫うように
果樹のまわりをまわるように
畑を深く掘りおこすように
わたしたちは準備する
遠い道草 永い停滞に耐え
忘れられたひと
忘れられた書物
忘れられたくるしみたちをも招き
たくさんのことを黙々と
 

わたしたちのみんなが去ってしまった後に
醒めて美しい人間と人間との共感が
匂いたかく花ひらいたとしても
わたしたちの皮膚はもうそれを
感じることはできないのだとしても
 

あるいはついにそんなものは
誕生することがないのだとしても
わたしたちは準備することを
やめないだろう
ほんとうの 死と
        生と
        共感のために
 

 

       茨木のり子(1926-2006) 詩集『対話』1955年から

アーティスト・ナイトと茨木のり子と生姜漬け

 花匠でのアーティスト・ナイト(個展のオープニング・イヴェント)を木曜日に無事終えた。その夜集まってくれた人々と、素適な時間と空間を共有できたことはなによりも幸せだった。初めてのソロ絵画展のスピーチは年甲斐になく照れたけど、人々からの温かい拍手を浴びたらとても満たされた気持ちになりました。ありがとう!みんな、みんな(当日会場に居なかった友人達、私の日本の家族へも)に感謝したい。

P1040761

 その夜はなんともいえない感情がこみ上げてきて少し興奮気味だった。帰宅し、オーガニックの緑茶を淹れてひとりソファーに沈む。一口二口飲んでいくと、幸福の安堵の波が押し寄せて、マグを持ったままうとうとしてしまうくらい。ベッドに入ってそのまま朝まで熟睡。のはずが、朝4時ごろに目が覚め、色々な想いが攻撃を始め結局眠れなくなってしまった。

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